眺めのいい部屋

千葉県市川市に住み始めて、約3年半になる。住み始めたら、なんとなく愛着が湧いてくるから不思議なものだ。市川市の良いところを、いろいろと宣伝したくなってくる。
市川というと、永井荷風の終の棲家となった場所である。荷風市川市の名誉市民となっているそうだ。『断腸亭日乗』には、私が今住んでいる市川真間周辺をブラブラと散歩していたことも書かれている。真間川の桜並木や手児奈堂、弘法寺、亀井院など、荷風もこの辺りを歩いていたのかと思うと、なかなか感慨深いものがある。ちなみに亀井院は一時、北原白秋が暮らしていた場所である。
そんな文学散歩にはもってこいの市川市であるが、最近市川駅前の高層マンションの最上階を市川市が展望台として、一般市民に開放しはじめた。展望台からは先ほどの真間川や弘法寺がある真間山一帯も見渡せるし、晴れた日には富士山を見ることができる。東京湾も空から見れば、とても美しい。しかし、何といってもお勧めは夜景である。無料なので、今暇で暇で時間を持て余している私は、ひっきりなしに展望台へ通い詰めている。ひときわ高い場所から眺める風景は、自分の心の奥底に眠る支配欲みたいなものが刺激され、なんだか図々しい人間になっていくようだ。日々生きていく中で、時にはこのような図々しい気分になることは精神衛生上、悪いことではないと思う。
今日もまた私は、展望台から「わが民衆たちよ!わが国土よ!」とニヤニヤしながら、下界を見渡すのである。